はじめに

スマートフォンで商品を注文すれば、数日後には自宅に荷物が届く。
欲しいものを簡単に手に入れられる今の生活は、とても便利だ。
しかし、その便利さは誰によって支えられているのだろうか。
映画『ラストマイル』は、巨大物流センターを舞台に、連続爆破事件の謎を追うサスペンス映画だ。
緊迫した展開や巧妙な伏線が見どころだが、僕が特に考えさせられたのは、その裏側に描かれる現代社会の仕組みだった。
私たちが当たり前のように求めている「早く、安く、便利に」というサービス。
その実現のために、誰かが無理をしているとしたらどうだろうか。
今回は、映画の感想とともに、便利な社会の裏側にある労働者の負担について考えていきたい。
映画『ラストマイル』の基本情報
- 作品名: ラストマイル
- 公開年: 2024年
- 監督: 塚原あゆ子
- 脚本: 野木亜紀子
- 出演: 満島ひかり、岡田将生ほか
- ジャンル: サスペンス・ミステリー
- 上映時間: 129分
あらすじ
11月、流通業界最大級のイベントであるブラックフライデーを目前に控えたある日、世界規模のショッピングサイトから配送された段ボール箱が爆発する。
やがて事件は連続爆破へと発展し、日本中を巻き込む事態となる。
巨大物流センターのセンター長に着任したばかりの舟渡エレナと、チームマネージャーの梨本孔は、事件の収拾に奔走する。
次々と届く荷物。止めることのできない物流。そして、どこにあるか分からない爆弾。
人々の生活を支える物流を動かし続けながら、どうすれば被害を防げるのか。限られた時間の中で、関係者たちは難しい判断を迫られる。
果たして、事件の裏側には何が隠されているのか。
映画の見どころ
日常に欠かせない物流が、緊迫したサスペンスに変わる
本作の面白さは、誰もが利用する宅配サービスを、連続爆破事件という非日常的な出来事と結びつけたところにある。
普段、僕たちは注文した商品が届くまでの過程をあまり意識しない。商品を選び、決済を済ませ、荷物が届く。それが当たり前になっている。
しかし、もし配送された荷物が爆弾だったら。
この映画では、何気ない日常の仕組みが、一瞬で恐怖の対象へと変わる。
荷物を運ぶことそのものが危険につながる一方で、物流を止めれば社会に大きな影響が及ぶ。
物語が進むほど、単純に物流を止めれば解決するという問題ではないことが分かってくる。
普段は意識することのない物流の重要性を、サスペンスという形で実感できる作品だ。
『アンナチュラル』『MIU404』とつながる世界観

本作は、ドラマ『アンナチュラル』や『MIU404』と同じ世界観を共有している。
過去の作品を見ている人にとっては、おなじみの人物が登場することも楽しみの一つだ。
ただし、本作の魅力は、過去作とのつながりだけではない。
物流という身近な題材を通して、企業の論理や社会の仕組み、人々の生活が複雑に絡み合う様子を描いている。
事件の犯人は誰なのか、何のために事件を起こしたのか。ミステリーとして先の読めない展開を楽しみながら、社会の裏側にも目を向けられる作品になっている。
実際に見た感想・考察
「便利であること」は、本当に当たり前なのだろうか
この映画を見て最も考えさせられたのは、僕たちが普段享受している便利さについてだ。
今では、スマートフォンで注文すれば、家にいながら商品を受け取ることができる。
店舗まで足を運ぶ必要もなく、さまざまな商品を比較し、簡単に購入できる。
こうしたサービスは、僕たちの生活を確実に便利にしている。
しかし、その便利さを実現するためには、
- 商品を保管する人
- 荷物を仕分ける人
- トラックで運ぶ人
- 配達する人
など、多くの人の仕事が必要になる。
僕たちが画面上でボタンを一つ押すだけの行為も、物流の現場では多くの作業につながっている。
それでも、消費者である僕たちは、注文した商品が届くまでの過程をほとんど意識しない。
荷物が予定どおり届けば満足し、少し遅れれば不便だと感じる。
もちろん、サービスに対して適切な品質や利便性を求めること自体は悪いことではない。
問題は、便利さを求める一方で、その便利さを実現するために必要な負担を見ようとしているかどうかだと思う。
僕たちは、安く、早く、簡単に商品を手に入れたいと考える。
しかし、その要求を実現するために、現場で働く人々の仕事がどれほど増えるのか、どのような負担が生まれるのかまでは、なかなか考えない。
サービスを利用する側からは見えない仕事が、サービスの価値を支えている。
『ラストマイル』を見て、普段の買い物では意識することのない、当たり前の生活を支える人々の存在を改めて考えさせられた。
効率化の先にあるものは、本当に豊かな社会なのか
現代社会では、効率化が重視されている。
より短い時間で、より多くの商品を届ける。無駄を減らし、コストを抑え、利益を増やす。
企業が競争するうえで、こうした取り組みが重要なのは間違いない。
技術や仕組みの改善によって、これまで人間が担っていた負担を減らせることもある。
効率化そのものが悪いわけではない。
しかし、効率化によって生まれた余裕が、必ずしも現場で働く人々の余裕につながるとは限らない。
作業が速くなれば、さらに多くの仕事をこなすことが求められるかもしれない。
配送にかかる時間が短縮されれば、それが新たな標準となり、以前よりも速いサービスが当然のものとして期待されるかもしれない。
一つの改善が新たな要求を生み、気づけば現場の負担が変わらない、あるいは増えてしまう。
そんな状況も考えられる。
企業にとっては生産性の向上でも、働く人にとっては休む時間が減ることかもしれない。
もちろん、実際にどのような影響が生じるかは、企業の仕組みや労働環境によって異なる。それでも、効率化の成果を何のために使うのかという問いは重要だ。
生産性が上がったなら、より多くの仕事をこなすことだけを目指すのではなく、労働時間を短縮したり、仕事の負担を軽くしたりすることにもつなげられるはずだ。
効率化の目的は、単に多くの仕事をこなすことなのか。それとも、人々がより豊かに生活できるようにすることなのか。
この二つは、必ずしも同じではない。
便利なサービスが増え、商品が以前よりも簡単に手に入るようになったとしても、その裏側で働く人々が余裕を失っているのなら、社会全体が豊かになったと言い切れるのだろうか。
本作は、効率や利益だけでは測れない豊かさについて考えるきっかけを与えてくれた。
企業の責任は、利益を生み出すことだけなのか
企業は利益を生み出さなければならない。
事業を継続し、従業員に給与を支払い、取引先との関係を維持するためには、経営が成り立つことが必要だ。
そのため、コストを削減し、効率を高め、より多くの商品を届けようとすることには合理性がある。
しかし、企業の活動によって影響を受けるのは、経営者や株主だけではない。
実際に働く従業員、配送を担う人々、取引先、サービスを利用する消費者など、さまざまな立場の人がいる。
例えば、配送コストを下げるという判断があったとする。
その結果、企業の利益が増えたとしても、現場に過度な負担が生まれたり、安全を確保するための余裕が失われたりするなら、その影響も考えなければならない。
もちろん、コスト削減が必ず労働者の負担増につながるわけではない。
業務の見直しによって無駄な作業が減り、働きやすくなる場合もある。
重要なのは、経営上の判断がどのような結果をもたらすのかを確認し、その影響に責任を持つことだと思う。
企業が利益を追求することと、働く人々を大切にすることは、本来、対立するだけのものではないはずだ。
働く人が安心して仕事を続けられる環境を整えることは、長期的に事業を続けるためにも重要になる。
短期的な利益を優先するあまり、現場で働く人々の負担を見落としてしまえば、その仕組みは長く続かないかもしれない。
映画を通じて考えたのは、企業の価値を利益の大きさだけで判断するのではなく、どのように利益を生み出し、その過程で関わる人々をどう扱っているのかという視点も必要だということだ。
便利さを求める僕たち自身にも、考える余地がある
ここまで企業や労働環境について考えてきたが、便利さを求めているのは企業だけではない。
僕たち消費者も、より安く、より早く、より簡単に商品を手に入れたいと考えている。
欲しい商品がすぐ届くことはうれしいし、配送料が安いこともありがたい。自分自身も、そうしたサービスの恩恵を受けている一人だ。
だからこそ、労働者の負担を企業だけの問題として片付けることもできないと思う。
消費者の要求が企業のサービスに影響を与え、企業の方針が現場の働き方に影響を与える。もちろん、消費者一人ひとりの選択が直接的に労働環境を決めるわけではない。それでも、僕たちが便利さをどのように求めるのかは、社会のあり方と無関係ではないはずだ。
例えば、少し配送が遅れたからといって、すぐに不満を持つ必要はあるのだろうか。いつでも最短で届けてもらうことが、本当にすべての場面で必要なのだろうか。
もちろん、急いで商品を必要とする事情は人それぞれだし、消費者が過度に我慢すれば解決するという単純な話でもない。働く人々の負担を減らすためには、企業の仕組みや業界全体の取り組みも欠かせない。
ただ、僕たち自身が「早く届くのが当たり前」「安く買えるのが当たり前」と考えていることについて、一度立ち止まって考えてみる価値はあると思う。
便利さを手放す必要はない。便利なサービスを利用しながら、その裏側にある仕事や負担にも目を向けることはできる。
何気なく受け取っている荷物も、誰かの仕事によって届けられている。
そのことを意識するだけでも、普段の生活の見え方は少し変わるのではないだろうか。
こんな人におすすめ
- 伏線や謎解きが楽しめるサスペンス映画が好きな人
- 『アンナチュラル』『MIU404』の世界観が好きな人
- 資本主義や企業のあり方、労働環境に興味がある人
- 映画を通じて、普段の生活や社会について考えてみたい人
まとめ|便利さの裏側に目を向ける

『ラストマイル』は、連続爆破事件の謎を追うサスペンスとして楽しめるだけでなく、僕たちの生活を支える物流と、その裏側にある社会の仕組みについて考えさせられる作品だった。
僕たちは、商品が早く届くことや、安く買えることを当たり前のように受け止めている。
しかし、その便利さは、物流を支える多くの人々の仕事によって成り立っている。
効率化や利益の追求は、社会を発展させるために必要なものだ。一方で、その成果が誰に還元され、どのような負担が生まれているのかを見失ってはいけない。
そして、この問題は企業だけのものでもない。便利なサービスを利用する僕たち自身も、その仕組みの一部にいる。
すべての便利さを疑う必要はない。
ただ、当たり前だと思っているものが、どのような仕事によって支えられているのかを考えてみる。
映画を見終わったあと、いつもの買い物や宅配便の見え方が少し変わった。
本当の豊かさとは、便利なサービスを手に入れることだけではなく、その便利さを支える人々も安心して働ける社会をつくることなのかもしれない。



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